8月 30, 2026
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【MTG】MSCHFコラボの表現と企業ガバナンス——2020年の「倫理声明」と現状の矛盾を考える

マジック:ザ・ギャザリング(MTG)の限定製品ラインである「Secret Lair」において、アート集団「MSCHF」とのコラボレーションカードが発表されました。その中で、カード《Doomsday / 終末》に原爆や核実験を強く想起させるデザインが採用されたことが、議論を呼んでいます。

MSCHFは社会諷刺やタブー視される表現を皮肉ることで知られるコレクティブであり、その過激さこそが彼らのブランド価値であることは理解できます。しかし、マジックの販売元であるWizards of the Coast(WotC)およびHasbroという大手上場企業が、「企業ガバナンス」の観点からこの表現をそのまま通過させたことには大きな疑問が残ります。

特に、同社が2020年に発表した過去の声明と照らし合わせた時、そこには明確な行動の不一致(矛盾)が見えてきます。

2020年の声明:『人種差別・倫理的配慮』への強い決意

2020年6月、WotCは日本公式ウェブサイトでも『人種差別を想起させる描写についての声明』を掲載しました(参照:MTG日本公式 声明ページ)。

この声明の中で、同社は過去のカード(《Invoke Prejudice》や《Crusade》など)について「本来印刷されるべきではなかった」「忸怩(じくじ)たる思いである」と猛省し、以下のような強いコミットメントを掲げていました。

「どのような形であれ人種差別的要素は受け入れがたく、私たちのゲームはもちろん、いかなる場所においても存在が許されるものではありません。」

「私たちの取り組みが不十分であるときに、そのことに気づかせてくださる皆さまには、心から感謝いたします。私たちはより良い取り組みをするべきであり、より良い企業になれるはずです。」

この声明は単なる差別反対にとどまらず、「過去の過ちを認め、多様なプレイヤーが安心して遊べる世界を作るために、カード表現のチェック機能を抜本的に見直す」という、TCG業界全体の倫理基準を引き上げる意思表明であったはずです。

やっていることと考えていることの「矛盾」

では、今回の《Doomsday》の核兵器モチーフ表現はどうでしょうか。

原爆や大量破壊兵器は、何百万人もの無辜の命を奪った歴史的事実であり、現在進行形で国際社会が直面している人道上の重大な禁忌(タブー)です。特定の文化や歴史的トラウマを抱える地域・人々に対して配慮を欠く点において、本質的には2020年に問題視された「不適切な描写」と同じ構造を孕んでいます。

ここで生じる最大の矛盾は以下の2点です。

  1. 自ら設定した「倫理的チェック基準」の形骸化過去に「配慮を欠いた表現を世に出してしまった」反省からチェック体制を強化したはずの企業が、コラボ相手が過激派アーティストだからといって倫理的フィルターをオフにしてしまっている点。
  2. ダブルスタンダードの発生政治的・人種的・歴史的文脈において「何がアウトで何がセーフか」の線引きが、企業のその時の都合やコラボ相手によってブレている点。

「パンクでアヴァンギャルドなアート」という言い訳は、アーティスト側の文脈としては成り立っても、それを出荷・販売して利益を得るパブリッシャー(企業)側のガバナンス上の言い訳にはなりません。

日本法人におけるガバナンスの課題

この問題は、米WotC本社だけでなく、日本市場を担当する「mtgjp(日本公式)」の役割にも疑問があります。

グローバル企業において、各地域の法人の役割は単なる「翻訳と販促」だけではありません。「地域の歴史的背景や文化的感受性(サステナビリティ/DEI)に配慮し、本国側の決定に対してリスクをフィードバックするチェック機能」を果たすことも、現代のコンプライアンスおよびリスクマネジメントにおいて極めて重要です。

実際の被害や歴史的背景をダイレクトに持つ日本の市場において、この表現がどのように受け止められるかを検証し、止める(あるいは調整を提言する)ガバナンスが機能しなかったことは、国内のファンにとっても非常に残念です。

おわりに:表現の自由と企業の責任

表現の自由そのものを否定するつもりはありません。しかし、TCGという「世界中のあらゆる年代・背景を持つ人々が楽しむパブリックなゲーム」を提供する企業には、相応の社会的責任が伴います。

「過激なアートで話題を作りたい」というマーケティングの意図が、2020年に誓った「誰もが受け入れられるゲームを作る」という企業の基本理念(ビジョン)を追い越してしまったのではないか。

一人のMTGファンとして、またTCG文化を愛する者として、WotCには今一度自らのガバナンスと理念の整合性を冷静に見直してほしいと願わざるを得ません。

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